トンビの友達

大学生の日記

「記憶に残っている、初恋の日」

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

初めて恋に落ちた日。

小学5年生の時にその小学校に転校してきた私は全然その学校に慣れることができず、いつも1人で過ごしていた。

初対面の人には敬語で○○さんと呼ぶと剣道を習っていた時に教えてもらったのでその調子行ったが、固く感じたらしく割とすぐに転校生フィーバーはなくなっていた。

 

不思議と学校に行くことは苦ではなかったこともあり、毎日休まず登校だけはしていた。

休み時間はあまりにも暇で教室に置いてある本は大概読んだし、円周率は最高で50桁までは覚えた。

帰り道は人と話す妄想をした。この頃から妄想癖がついた。

人と話したかったらしい。

 

そんな中で迎えた小学6年生の始業式。

クラス替えで体育館はざわついていた。

私からすればひと学年4クラスあるその小学校でのクラス替えは、単純に4分の3知らない人と同じクラスになることになり、去年ほとんど誰とも話さなかったことから新しい小学校に入るのと同じ気持ちだった。

自由奔放な親の元に生まれた私は、それまで何回も転校を繰り返していたのでクラス替えは無に近かった。

何のためにそんなに騒ぐことなのか。

今思い返せばずいぶんと冷めた小学生だ。感情が死んでしまっているな。

 

知らないクラスから知らないクラスに移された私は特に表情が変わることもなく、感情の起伏もないまま担任の先生の発表を眺めていた。

 

「それでは各クラスごとに教室に戻ってくださーい!それでは1組から…」

 

自分のクラスの番を待って列に従って教室に向かった。

前の人も隣の人も後ろの人も友達が近くにいたらしく、道中も誰かと話すことはなかった。

 

6‐〇

教室についた。

階段側の扉からぞろぞろと教室に入っていく。

2列に並んでいたこともあって、隣の列の人に先に入るようにジェスチャーをすると隣の人もその後ろの人も順番に入っていった。

気づけば私の後ろの人も入っていき、全体の真ん中にいた私は最後の方になっていた。

その時先に入っていくことは何も思わなかったし、一人譲るとそうなるだろうということは想像するに容易かった。

 

最後に入ることを決めたとき、ふいに状況は変わった。

「先はいれよ」

 

時が止まったかと思った。

この男子は私に話しかけてる?

あまりの驚きに俯いていた顔を勢いよく上げた。

 

 

その時の自分の身長が160㎝ほどあったため、同級生の男子イメージどこか小さくて幼い人というところだった。

だから男子に譲ってもらえるとは思っていなかった。

しかも自分よりも身長が高い。

 

これは人に話しかけられてびっくりして動悸がしているのか、それともこれが恋というものなのか?

恋愛ドラマは見たことがある。恋愛がどういうものなのかも一応知っているつもりではあるがこれは当てはまるのか?その動悸とはちがうのでは?

いろんなことが渦巻きながら気が付けば席についていた。

あれ?譲ってもらって先に入ったんだっけ?後に入った?お礼は言った?

 

始業式の日はすぐに学校が終わる。

終わりの時間にその人の席を見るといろんな人が集まっていた。

そうか、彼とは生きる世界が違うのか。

別に話せなくてもいい。けどもう少し顔をはっきり見てみたい。

 

帰り道もその夜も次の日もその人のことばかり考えていた。

 

あ、これが恋なのか。

気づいたのはかなり遅かった。

 

結局2年後に付き合って秒で振られた。2年引きずった。

三角関係も略奪もあったけど、たぶんあの日は忘れないと思う。

いつまでも美化していると思う。

 

若い時の恋愛なんてこんなもんだよな。

そういえば優しくされたらすぐにかっこいいと思うところも自分より身長が高い人が好きなところも大人っぽい落ち着いた人が好きなところも変わってないな。

懐かしいな。